自転車社会の現状についてREPORT

自転車社会の現状

1. 自転車を巡る環境変化

自転車は、買物や通勤・通学などの日常生活における身近な目的地への移動手段、また休日のサイクリング等幅広く利活用されています。近年の健康志向、環境やエネルギーに配慮する意識の高まり等とも相俟って、自転車利用は量・範囲とも広がり続けています。近年では「公共交通の機能補完」「地域の活性化」「観光戦略の推進」等のため自転車を利活用したまちづくりの推進やレンタサイクルやシェアサイクルの本格的導入などに取り組む地方公共団体の例がみられ、自転車利用が個人個人の移動手段としての側面だけではなく、地域政策における要としての側面も有してきている状況にあります。

一方、自転車関連事故は年間12万件(平成25年)発生しており、全交通事故件数の2割を占めており、自転車乗用中の死傷者は600人(交通事故死傷者数の13.7%)とG7各国のうち最も高い水準にあります。自転車死傷者数のおよそ3人に2人が何らかの法令違反があり、交通ルールを守ることで防ぐことができる事故も多いと考えられています。ルールを守らないのはルールを知らないのではなく、「通行環境が不十分」「違反をしても事故を起こす可能性が低い」といった理由によることから、「自転車通行環境の整備」「自転車安全教育の推進」対策の強化とともに、「具体的な事故データの提供と活用」が求められています。

2. 自転車利用時の身近なリスクと大きなリスク

自転車を利用する際の身近なリスクとしては、事故や故障で自力走行不能となる事態が発生した時ではないでしょうか。「出先で釘を踏みパンクしてしまった時」「電動アシスト自転車のバッテリーが切れて自力走行が難しい時」「ブレーキの故障やチェーン切れなどで故障してしまった時」「フレームまたはリムが曲がり、タイヤが回らなくなった時」「夜間走行の際にライトが点灯しない時や反射板が取れた時」「自損事故により怪我をして自力走行できなくなった時」などのケースに現場に駆けつけてくれる「自転車のロードサービス」の普及が今求められています。

そして自転車利用時の最も大きなリスクは、運転者自らが加害者(第1当事者もしくは第2当事者)となった事故を引き起こした時です。最近、自転車運転者が加害者となった交通事故で高額な賠償金支払いを命じられた判決を報道などによってご存知の方も多いのではないでしょうか。特に注目を集めたのが、2013年7月、小学5年生の少年が歩行中の女性と正面衝突し、女性が頭蓋骨骨折等の重度後遺障害を負って意識が戻らない状態となった事故について、9,521万円の損害賠償命令が下された事件です。特に通学で自転車を利用している子供を持つ親は、子供が起こした賠償事故の責任を負うことになりますから、より一層の注意(損害賠償保険等への加入を含めて)が必要になります。実はそのほかにも数千万円の支払い命令が下された事例が何件も出てきている現状を鑑みれば、自転車事故から守る自賠責保険のようなセーフティーネットが必要であり、高額な民事賠償で苦しむ被害者と加害者の双方を救済する制度構築が求められています。

3. 企業のリスク

ここでいう「企業」を①事業活動において自転車を利用させる事業者②自転車貸付業者(リース・レンタル等)③自転車通勤を認めている企業の3つに区分してリスクを分析する必要があります。

① 事業活動において自転車を利用させる事業者

これは、仕事で従業員が自転車を利用している事業者を意味し、具体的には物品の配達、顧客訪問、営業所間の移動、業務用品購入時等の際に従業員が自転車を利用する事業者を含むことになります。従って、業種は幅広く例えば、銀行・生保・損保などの金融機関、運送業、新聞配達、警察など大量の社有自転車を保有またはリース等により自転車を利用している事業者が対象となります。

当然のことながら、民法第715条第1項「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とあるように、事業活動において自転車を利用させる事業者は、従業者の自転車利用時の損害賠償事故の責任を負うことになります。また従業者が、自ら所有する自転車を事業活動のために利用した時の損害賠償事故も事業者が責任を負うことになります。

② 自転車貸付業者(リース・レンタル等)

一般的に、リースやレンタルにて自転車を利用するユーザーが自転車利用時に損害賠償事故を起こした場合、業務中であれば当該利用者の使用者責任が発生している事業者が損害賠償事故の責任を負うことになり、業務中以外であれば当該利用者個人が損害賠償事故の責任を負うことになります。しかしながら、このような損害賠償制度そのものの理解が浸透しておらず、事故が発生した場合に問題が発生するケースも多々あることも事実です。自動車のリースやレンタルの場合は、自動車貸付業者が包括して自賠責保険や任意自動車保険(フリート契約)を付保しており、利用者が安心して自動車を利用できる制度がありますが、自転車のリースやレンタルの際の保険制度が構築されていないのは大きな問題であるといえます。

③ 自転車通勤を認めている企業

企業にとっても、自転車通勤を奨励することにより、従業員の健康増進や環境に優しい企業としてのイメージ向上に繋がりますが、一方では交通事故により従業員が加害者になる可能性があるなど、企業にとっては自転車通勤制度導入の際に考慮すべきリスクもあります。また、自転車通勤を認めると、通勤時の交通事故の増加、自転車故障時の対応時間の増加、会社に電車・バス通勤の届出をしているが、現実には自転車通勤をして交通費を不正受給するといった問題が生じ得ます。従って、通勤経路の届出(労働者災害補償保険の通勤災害認定との関連)はもとより、自転車利用時のルール・マナーやリスクについての教育を受けたり、保険(示談交渉サービス付)加入を義務化することを盛り込んだ許可制にする必要があります。

また、従業員間の公平性の観点からも自転車通勤手当を支給することが必要になってきます。「官報388号(所得税法施行例の一部(第20条の2関係)を改正する政令)」(2014年10月17日)によると、1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離が2km以上10km未満の場合、4,200円であり、この限度額を活用して、自転車通勤へのシフトを加速する施策も今後推進されてくるものと思われます。

4. 自治体の自転車条例の現状と課題

2015年4月に施行された兵庫県の「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」第13条において義務化されたのは、「自転車損害賠償保険」です。そして、義務化の対象は、「利用者としての個人」と「未成年の場合は保護者」、そして「従業者に自転車を利用させる事業者」となっています。また第14条では、自転車小売業者と自転車貸付業者に対しても、利用者に対して自転車損害賠償保険の加入の有無を確認し、加入が確認できないときは自転車損害賠償保険の加入を勧めることを義務化しています。更に、第15条では、県、交通安全団体、自転車損害賠償保険を引き受ける保険者(損害保険会社)は、自転車損害賠償保険に加入する者の利便に資するため、相互の連繋及び協力の下、自転車損害賠償保険に関する情報の提供その他の措置を講ずるよう努めなければならない、と規定されています。

この条例の主旨を考えれば、自転車損害賠償保険に加入することの義務化のみならず、自転車損害賠償保険の加入の有無の確認や加入情報の連繋についても実現可能性を担保していかなければなりませんが、現状では、効果的・効率的な方法が見当たらない、という状況にありますので、早急にこれらの諸課題について対応できるよう制度構築が必要になってきます。また、保険募集には様々な制約要件(資格取得と損害保険代理店登録)がある中で、自転車小売業者や自転車貸付業者が自転車損害賠償保険の加入を勧めることができるための制度構築も同時に行う必要があります。